スペイン語やスペイン語圏文化・社会などに関するコラムやレポート

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2017/05/29

第12回 スペイン語の多様性 ―単語の出自から― (5)[三好準之助]

Tweet ThisSend to Facebook | by KUP

第12回 スペイン語の多様性 ―単語の出自から―(5)


三好準之助

 私はコラムの第2回で、スペイン語がこの世界の多くの国で公用語になっていることを紹介しました。その地域は、おもに、いわゆる中南米の国々ですが、アメリカ大陸に到達したコロンブスの遠征のスポンサーであるスペイン王室が15世紀末から植民地としてきました。それから19世紀の初頭まで、スペインは広大な南北アメリカ大陸を支配します(ブラジルは当初からポルトガルの植民地でした)。アメリカ大陸に渡ったスペイン人は、各地で目新しい事物に接し、自分たちが知っている事物に似ているものには自分たちのスペイン語の単語を当てましたが、大半の事物の名前には先住民のことばを採用しました。先住民にも多くの異なる集団があり、彼らの言語も異なっていたために、その土地ごとの珍しい事物にその土地の言語の名前が付けられていきます。その名前がその土地のスペイン語に入り、そのスペイン語が本国のスペイン語にも入りました。植民地から独立したあとの国々は、宗主国であったスペインの言語を公用語にします。それらの公用語には国ごとに独特の先住民語系の単語がたくさん含まれています。

 スペイン語の単語の出自の多様性ということでは、南北アメリカの先住民語系の単語が大きく貢献しています。しかし中南米のスペイン語からスペインのスペイン語に入った先住民語系の単語の多くは、スペイン語を経由して世界に広まり、遠くの日本にも届いています。

 コロンブスが1492年に到着したのはカリブ海に浮かぶ島々でした。そこではアラワク語(代表的な方言はタイノ語)が話されていました。コロンブス自身がこのアラワク語からcanoa「カヌー」[カノア]、hamaca「ハンモック」[アマカ]、caribe「カリブ人」[カリベ]などを採用し、日記に記載しています。アラワク語から採用された単語には、ほかに、maíz「トウモロコシ」[マイス](英語がこのスペイン語をmaize[メイズ]として採用)、batata「サツマイモ」[バタタ]、sabana「草原」[サバナ]などがあります。このsabanaから英語系の地理用語savanna「(広い草原地の)サバンナ」が形成されました。また、語源は不明ですがtabaco「タバコ」もアラワク語系である可能性が大きいようです。

 カリブ海南部にはカリブ語を話す人たちが住んでいましたが、このカリブ語からスペイン語に入った単語に、caníbal「食人種」[カニバル](コロンブスの日記にも出ていますが、これから英語のcannibalが形成されます)、caimán「(日本でも知られている)カイマン鰐(ワニ)」[カイマン]があります。

 スペイン人は16世紀の前半に、カリブ海から北アメリカ大陸を侵略します。いまのメキシコにあたる地域です。そこでも先住民がいくつかの言語を使っていましたが、その代表格はナワ語です。ナワ語からスペイン語にたくさんの単語が入りました。たとえば、日本でもよく知られている「チョコレート、ココア」はchocolate[チョコラテ]という名前でスペイン語に入りました。そして世界に広まったのです。チョコレートの原料はカカオの実ですが、それはナワ語からcacaoという形でスペイン語に入りました(このスペイン語が変形して、日本でもおなじみの英語cocoa「ココア」が形成されます)。

 スペイン人たちは、つぎに南米大陸を征服しますが、現在のエクアドル、ペルー、ボリビアのあたりに大きな植民地を形成しました。そこの先住民たちはケチュア語やアイマラ語という先住民語を使っていました。ケチュア語からスペイン語に入った単語に、condor「(鳥)コンドル」、papa「ジャガイモ」[パパ](これは上記のスペイン語のbatataと交差して、別のスペイン語patata「ジャガイモ」を作り、英語に入ってpotatoになります)、pampa「(草原の)パンパ」、mate「マテ茶」などがあります。

 スペイン人はペルーから南下してチリを征服しますが、そこの先住民はマプチェ語を使っていました。この言語からチリのスペイン語には多くの単語が入っていますが、スペインにはほとんど届いていません。わずかに届いたものの1つがmapuche「マプチェ人」です。このことばはマプチェ語のmapu「(生まれた場所の)生地、大地」+che「人々」でできています。

 スペイン人は18世紀に入って今のパラグアイ、ウルグアイ、アルゼンチンのあたりを制定します。そこではグアラニー語が使われていて、多くの単語がその地のスペイン語に入っています。

スペイン語の単語の多様性のことを5回にわたって、できるだけ皆さんの日本語とも関連させて紹介しました。これをきっかけにスペイン語に興味を抱き、学習する人が増えることを願っています。

[三好準之助]
京都産業大学名誉教授

12:30 | スペイン語の多様性
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