スペイン語やスペイン語圏文化・社会などに関するコラムやレポート

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2016/01/03

第2回 スペイン語の多様性 ―単語の出自から― (1)[三好準之助]

Tweet ThisSend to Facebook | by KUP

第2回 スペイン語の多様性 ―単語の出自から― (1)


三好準之助


 日本で教えられるスペイン語は、これまでは大抵ヨーロッパのスペインという国の標準形でした。しかし堀田英夫先生の書かれたコラム「南北アメリカ・スペイン語圏形成の一歩」からわかるように、この世界の21か国でスペイン語が公用語になっているし、その人口も1位がメキシコで2位がコロンビア、3位がスペインです。ところが経済活動を計る国内総生産 (GDP)を見ると、スペイン語圏ではスペインが1位(世界14位)で、2位がメキシコ(世界15位)です(日本が世界第3位であることは知っていますね)。南北アメリカ大陸はかつて、そのほとんどがスペインの植民地であったという歴史的理由や、それゆえにスペイン文化を色濃く継承しているという文化的理由で、スペインのスペイン語が教えられてきましたが、今後は教育機関によって変わってくるでしょう。

 人々は時代の変化と共に生まれたり接したりする目新しい物事に名前を付けなくてはなりません。それゆえ日本語もスペインのスペイン語も、いわゆる中南米各国のスペイン語も、色いろな異言語のことばを導入しています。そしてそれが各言語の、単語の出自という点で多様性を生み出します。

  このコラムでは、スペインのスペイン語の単語の出自に見られる多様性を少しお話します。

  スペイン語はもともと、話しことばのラテン語が発展してできた言語です。ラテン語には書きことばと話しことばがあります。書かれたことばとしてのラテン語は文語の古典ラテン語です。それは話しことばである口語の平俗ラテン語とは異なります。スペイン語はこの口語ラテン語から生まれました。それが歴史に登場するときのスペインの、もとの言語です。そして10世紀を過ぎたころからスペイン語が登場します。

  スペインは西ヨーロッパの南にあるイベリア半島に存在します。このあたりは西暦紀元の前からローマ帝国の一部になっていました。ローマから来た人たちはイベリア半島の各地で口語ラテン語を使っていました。スペイン語が登場した頃には、ほかにも口語ラテン語から発展した言語が生まれます。その代表的なものとして、イベリア半島の西北部の地方で使われるガリシア語と東部で使われるカタルーニャ語があります。これらはスペイン語と同じように口語ラテン語から生まれた、スペイン語の姉妹語です。イベリア半島には、また、ローマ人がやってくる前から使われていた言語が残っています。それが北部で使われているバスク語です。スペインで使われているこれらの異言語からスペイン語に入った単語をいくつか紹介しましょう。

  ガリシア語はポルトガル語ととてもよく似ています。ひとつの言語(ガリシア・ポルトガル語)としても扱われます。ジャムの「マーマレード」は知っていますね。この日本語はフランス語(marmelade)から入ってきましたが、このフランス語は、また、ガリシア・ポルトガル語に入ってmarmeladaになり、これがスペイン語に入ってmermelada[メルメラダ]になっています(この3種類のスペルの微妙な違いに注意してください)。

  イベリア半島東部で広く使われているカタルーニャ語からスペイン語に入ったことばもあります。興味深い歴史的な事情から、「紙」の意味のスペイン語papelもカタルーニャ語から入っています。紙は中国で製法が発明され、日本にもヨーロッパにも導入されました。紙の製法がヨーロッパに紹介されたのは、アラビア人がスペインのカタルーニャ地方やイタリアに工場を作ってからです。文字を記録する材料としてローマ世界で知られていたのはパピルス(ラテン語でpapyrus)でしたが、このラテン語からカタルーニャ語で紙を指すのにpaperという言葉が作られ、それがpapel[パペル]という語形でスペイン語に入りました。紙は英語でもpaperと言いますが、これはラテン語papyrusから作られた古い英語に由来します。

  バスク語は言語系統が不明です。スペインとフランスの間にそびえるピレネー山脈の南北で使われています。スペイン語には面白いバスク語系のことばがあります。それは「左」の意味のizquierda[イスキエルダ]です。スペインのもとの言語はラテン語でしたね。ラテン語にも「左」の意味のことばsinestrumがありました。では、なぜ同じ意味のことばをバスク語から導入したのでしょうか。このラテン語はスペイン語に入ってsiniestro[シニエストロ]になりましたが、イベリア半島の人々が、鳥が左側から飛び立つと縁起が悪いと信じていたために、siniestroに不吉な意味が加わったのです。不吉な意味を避けるためにバスク語から同じ意味の単語を採用したのですね。

  次回はアラビア語からスペイン語に入っていることばの話をします。


[三好準之助]

京都産業大学名誉教授


15:04 | スペイン語の多様性
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